もってけぇ街道

 むかしむかし、あるところに、もってけぇ街道とよばれる道路がありましたそうな。

    この道路に、お菓子の包み紙やたばこの吸殻をポイ捨てすると、道路の土の中から、

「もってけぇ・・・、もってけぇ・・・」 という、気味の悪い声がしましたそうな。

 それでも、ポイ捨てしたまま帰ろうとすると、その声はだんだん大きくなって、ついには

「もってけぇ!」

あたりに響きわたる大声になりましたそうな。

 そんなことが重なって、人々はこの道路のことを、もってけぇ街道とよぶようになりました。

 ところが、なんともおうちゃくいとっつあんがおりましてな。

  「べらぼうめ、もってけぇ街道なんかこわくもなんともありぁしねぇ」と、たばこの吸殻を

まとめて捨てたそうな。

 とたんに、土の中から聞こえてきました。「もってけぇ~」あの声が・・・。

  「おいら、なんにも聞こえねぇ。さいなら!」 とっつあんは走りだしました。

  「もってけぇ~っ」 まだ聞こえてきます。

 とっつあんは、走って走って走り続けました。やっと、あの声が聞こえなくなったと思ったら、なにやら下駄の音が聞こえてきましたそうな。 

 カラーン、コローン。カラーン、コローン。

 その音は、だんだん近づいてきます。そして、柳の枝のところでぴたりととまりましたそうな。

 そして、すっとあらわれた、美しい女の人。その女がいいました。

 「ポイ捨てしたものを、拾ってきてきちんと始末しなさいな」

 「いやなこった」 とっつあんがこういうと、女の人の態度ががらっとかわったそうな。

 「どうしてもかえ?これでもかえ?」と、つき出した顔は、のっぺらぼう。

 

 

 

夢中で逃げるうち、夜なきそばの屋台のあかりを見つけたとっつあん。よろよろと駆け込みました。

 「お、おやじ、水をくれ。水を・・・。出たんだよ、あれが、あれが!」

 「あれがじゃ分かりませんよ。もしかすると、あれというのは、こんなやつじゃありませんでしたかね」そういいながら、振り返ったおやじの顔は、これものっぺらぼうでありましたそうな。

 「ひ~っ」とっつあんは、腰を抜かしてしまいました。

 それでもとっつあんは、やっとのことで、家にたどりつきましたそうなさい。

 「おや、おまえさん、元気がないね」

 「で、出たんだよ、あれが!」

 「あれがじゃ、分かりませんよ」 おかみさんがこういったときです。

 「も、もしかしたら。こ、こいつも?」 とっつあんは、ちらっとおかみさんの方を盗み見しました。

 「もしかして、出たというのは、こんなやつじゃなかったのかい?」

  おかみさんが、顔をつるりとなでると、のっぺらぼう。

 「やっ、やっぱし!」 どういうわけか、おかみさんまでのっぺらぼうになってしまって、とうとう、とっつあんは気をうしなってしまいましたそうな。

 「とたんに、おかみさんの姿は消えて、とっつあんはもってけぇ街道のそばの墓場でひっくりかえっておりましたさ。

 矢田学区でも、このごろ、道路へのポイ捨てが目立つようになりました。道路はごみ捨て場ではありません。お互い、気をつけましょう。こんなことしてちゃ、小学生に笑われちゃうよ、ホント。